ヴァンダー (not okay but okay)

口上〜
カンボジアで、TVやラジオ局を経営しているという大手ラスメイ・ハング・メアス社も、とうとうCDをリリースしなくなってしまったそうですが、ま、ラスメイに限らず、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの新興ギャラクシー、そしてカンボジアの音楽シーンに新風を巻き起こしているヴァンダーやヴァンサン擁するところのセルカード・ミュージックにしても、やっぱりCDをリリースしてはくれないという状況の中、レ・クマイルスの野辺くんに現地買付を敢行してもらったのでした。で、プノンペンの目抜き通りに唯一1軒だけ残っているという老舗ミュージック・ストアーでは、なんと、ギャラクシーやセルカード、あるいはラスメイのフィジカルが売られているということで、是非にと買い付けてもらったら、やっぱり、何というか、コレはやっぱり、パイレーツ・オヴ・カンボジア系CDRじゃないのか?と察せられるわけで…(先にあげた音楽制作3社との、何らかの交渉があるのかも知れませんが)、ま、それでもイイからフィジカルじゃなきゃ聴かん!という方、もし、いらしたら、どうぞ、よろしくお願い致します。いずれにせよ、僅少入荷となります。


というわけで、いつものように…以下、2年前の初夏、例によって、当方担当のラジオ小コーナーで、このヴァンダーを紹介した際の台本元原稿ですが…、

カンボジアはタイ、ラオス、ベトナムと国境を接する東南アジアの国です。
首都はプノンペン、人口は1470万、多くの人はクメール語を話す国で、働いている人の8割が農業に従事する農業国でもあります。
というわけで、このコーナーでも、何回かご紹介しているカンボジアの音楽ですが今日ご紹介するのはクメール・ヒップホップ・シーンに久々登場した大スターをご紹介したいと思います。
その名はヴァンダー、1997年カンボジア南部のシアヌークビル生まれで、本名は本名はヴァンダー・マン、現在はプノンペンに在住。
2014年わずか17歳でデビュー・シングルを発表し大きな話題を呼び、その後、2016年から4年間かけて制作したファースト・アルバムを2020年に発表、カンボジアの若い世代から圧倒的に支持される人気ナンバー1のラッパーになったそうです。

そんな彼が、今年21年に入りネット上に発表した曲を今日は聴いていただきましょう。

アーティスト名はヴァンダー、
曲名は “タイム・トゥ・ライズ” (なんと、いつの間にか、日本語歌詞表記も)!

まずは曲のスタートびっくりしました。
古い映画のオープニングみたいなオーケストラ演奏に続いて、チャペイと呼ばれる2本弦の月琴の弾き語り名人、カンボジアの人間国宝、コン・ナイ現在75歳の歌声が聞こえて来て、おおおっ!て感じになりましたねえ、久々。

ちなみに、月琴というのは満月のような円形の木製リュート型弦楽器のことで、中国に起源を持ち、江戸時代から明治にかけて日本にも伝わっています。カンボジア、ベトナムでは、伝統歌謡の分野で定着しています。

その歌というよりは、語り芸という感じでしょうか?
いかにもカンボジアらしいそのコン・ナイの節まわしは、欧米では、米国のミシシッピー・ブルースに喩えられ、メコン・デルタ・ブルースなんて呼ばれたりもしますが、そんな歌うような語るようなコン・ナイの名調子を受け継ぐように、現在、24歳の若手ラッパー、ヴァンダーが、カンボジアの伝統的な節まわしをたっぷり感じさせるラップを披露してくれるんですねえ。
それがまた、実にカッコイイ、これはには参りました。

今、立ち上がる時、いざゆかん、夢を追うもの皆に加護あれ、わがコン・ナイの意志を次ぐものよ、素晴らしき創造の扉を開け!
と、コン・ナイが歌うと、ソレに応えてヴァンダーは、やはりこんなラップを聞かせています。

立ち上がれ、どこまでも行ける、マスター・コン・ナイのように、あの星に続け、ベストを尽くせ、アジアの宝であったクメールの過去を照らせ、偉大な先人に学べ、古典にモダンを絶え間なくつなぎあわせ、立ち止まるな、胸を晴れ、やり抜くんだ、お前が、やらずに、誰がやる?

なんだか、出来過ぎのような気もしますが、いかにもカンボジア風情漂うクロイと呼ばれる笛の音や、木琴のロニアット・エックの響き、そして月琴チャペイの弦の音を散りばめながら、ヒップホップらしい重低音をクールに積み重ねたトラックの仕上がりも、実にカッコいいですよね。

ともあれ、この若きカンボジアのスター、ヴァンダー、聴いていただいた曲は、もともとカンボジアのフォークロア、民謡や伝統歌謡の中に潜在しているブルージーでヒップな音階やリズム感覚をすくい上げて生み出した曲でした。
1960年代後半から70年代の半ば、ポル・ポト政権成立以前まで大流行したカンボジアン・ロック全盛期の感覚に共通しているでしょうね。
あれから約半世紀、今後、カンボジアのヒップホップが一層盛り上がるか否か、は、この24歳、ヴァンダーの双肩にかかっているような気がします。

▽ 以下、本CDR収録曲となります(なお、18曲の収録ですが、文字がさっぱり読めませんので、英題のついている曲しかリンクしていません)。

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