20世紀はじめ、NYのイーストサイドに大挙して移民したブルガールズ(元はチュルク、コーカサス系と同化した遊牧民)やアシュケナジム(東欧のディアスポラ)の中にナフトル・ブランドワイン Naftule Brandwein (1884–1963) という今のウクライナあたりで育ったクラリネット奏者がいたんですが、この人、1920年代以降、NYのユダヤ系住民の大スタアになった人で、今日の北米クレズマーの元祖とでも言えそうな人です(ちょっと違うけど、ビギンで言えば、アレクサンドル・ステリオみたいな人?)。後年、その評判を聞いたチャーリー・パーカーやマイルス・デイヴィスが彼の出演しているクラブに通ったという話しも残ってますね。ふ〜ん、ま、吹奏楽器によるインプロヴィゼーションということなら、北米黒人ジャズより少なくとも300年は古いクレズマーのことですから(今のようにアップテンポな曲が多くなったのは19世紀頃と言われてますが)、参考にすべきことも多かったでしょう。
で、このダヴィド・オロフスキー(1981年ドイツ東部生まれのクラリネット奏者)率いるトリオ(ギター&べース)3者がこの作で演じるのは、クレズマーキング、ナフトル・ブランドワインへのトリビュート、ということになるわけですね。19世紀東欧ユダヤ人直系のクラリネット即興演奏が忠実に再現、されているんでしょうが、なんか、どっかしら、ショーロみたいにセンシティヴでアコースティックなクレズマー、と聞こえるということはありますね。あるいはトルコあたり、シャルクやハルクなんかで伴奏に使われるクラリネットにも似ていたり、それでいて直情的なところもあります。にしても、クラリネットの音色って深みのあるイイ響きなんですねえ、改めてそう思いました。