WERNYHORA / TOLOKA

グループ名となっているヴェルニホラは、18世紀のコサックの伝説的な吟遊詩人の名、「黒い海から白い海へ」と謡ったことで、ポーランドの没落とその後の再生を予言したとされているそうです。そんな詩人の名を冠し、2021年に6曲入りミニ・アルバム でデビューしたトラッド・トリオの2ndフル・アルバムがこちらとなります。
この、ヴェルニホラ・トリオは、ポーランド最南東端、カルパチア山脈の端に位置するサノクという街 (人口は約38400人)の出身で、現在もサノクを拠点に活動しているとのこと。ウクライナやスロバキアとも国境を接するこのサノク一帯には、ウクライナ語方言を話す少数民族、いわゆるハイランダーのボイコや、やはりウクライナ系のレムコなど、さまざまな民族が住んでいるということです。そんな、国境と民族が交差する、いわば民謡の宝庫に住まわっていたことは、当然、トリオの伝承音楽志向を刺激したことでしょう。
メンバーは女性ヴォーカルのダリア・コシェック、女性擦弦奏者(ヴィエール、レベック、ヴァイオリン、ヴィオラ・ダ・ガンバ、チェロ)のアンナ・オクレジェヴィッチ、そして、男性ハーディガーディ奏者のマチェイ・ハルナという3人。その後者2人の鍵盤擦弦はじめ各種擦弦重奏による、時にダウナーに下降し、時に間延びするようにレガートしながら上昇する、繊細さに薄く濁音をまぶしたようなその伴奏は、いかにもスラヴ系古謡を連想させる得難いもの。歌手ダリダ・コシェックの低音から高音域までよく伸びる靭やかで張りのある地声、時に透明感あるファルセットも聞かせるその歌にも、実に良くフィットしていると感じます。さらに、ドゥドゥーク、タール他でヴォイチェフ・ルベルトウィッツ参加、プロデューサーでもあるマルチン・ポスピザルスキもダブルベースを弾いています。
本作は、2021年にラジオ・ポーランド Ⅱ が開催した “ニュー・トラディション” コンクール優勝の報奨として制作されたアルバムとのこと(ジャケご覧の通り、美麗な装丁のブックレット CD、歌詞のポーランド語&英語訳等もついてます)。全曲ウクライナ語方言で歌われ、曲の多くはポーランドの民俗学者、オスカー・コルベクが19世紀に行ったフィールド・ワークの膨大なコレクションから選ばれたもの。ほか、トリオの一員、ハーディガーディ奏者のマチェイ・ハルナによる近年の現地フィールド・ワークの成果から選ばれた曲も加えられました。
ところで、アルバム・タイトルの “トローカ” という言葉は、火急の事態が起こった際、隣人同士、あるいは知らない者同士でも、互いに団結し無償の助け合いをする、という意味のウクライナ語の古語だそう。「ウクライナの隣人が血なまぐさい戦争の真っ只中にいる今、私たちにできる “トローカ” は、ポーランドの地のボイコ、レムコやポドリアといった各所に伝わって来た古いウクラニアン・ソングを、その美しさを聴いていただくこと、それだけです」と、ヴェルニホラは本作録音の主旨について語っています。

1 А я собі на горбочку / A Ja Sobie Na Góreczce 2:30
2 Було не копати / Było Nie Kopać 2:34
3 Червена ружа / Czerwona Róża 4:09
4 На високій полонині / Na Wysokiej Połoninie 5:44
5 Марія Діва / Maryja Czysta 3:07
6 Як Божа Мати по світу ходила / Gdy Boża Mateńka Po Świecie Chodziła 6:14
7 Щандрий вечор / Szczodry Wieczór 3:37
8 Не бий мене / Nie Bijże Mnie 3:57
9 Ой, собосю, собосейко / Oj, Sobótko, Sobóteńko 3:57
10 Ой, у ночі / Oj, W Nocy 5:32
11 Журба / Smutek 2:13

 

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