シン・シサモット(1932-1976)と言えば1950年代から70年代半ばまで、黎明期カンボジア歌謡のパイオニアとして活躍した男性歌手にして作曲家、未だにカンボジア・ポピュラー音楽の礎、方向性を決した人物として懐古されること多々、”King of Khmer music” として忘れることのできない人物です。残念ながら1976年、ポルポト / クメールルージュによるブルジョアジー、文化人、芸能人等の虐殺の犠牲者となってしまいましたが、その録音群は、いわゆる“カンボジアン・ロック”として、米西海岸やパリの亡命カンボジア移民の間で、多くのブートレグCDとして流通、聞くことができたわけです。が、残念ながら、これまでにリリースされて来たCDのほとんどは、60〜70年代EP音源に、後年録音のドラムスやエレキギター&ベース等々がオーヴァーダビングされ制作されたCDばかり、それはそれとして、ま、増幅されたチープなグルーヴにおいて、いわゆる“カンボジアン・ロック”として楽しむことはできたものの、ちゃんとした往時のオリジナル音源、現物を聞くことが叶わなかったというのがカンボジア音楽ファンの長年の悶え、痛恨事でもあったのでした…。で、とうとうここに、祝!オリジナル音源によるシン・シサモットの60年代ベストCDがリリースされたことを慶びをもってお伝えする次第。音質こそ、ややもってショボいといっても過言ではないわけですが、コレがオリジナルです。後年のオーヴァーダビング等は一切加えられていません。
で、果たして、その音楽的感触はと言えば “カンボジアン・ロック” と言うにはあまりにもメロディックなリズム歌謡の世界、もちろん、ギターバンド好きだったカンボジアのこと、既にエレキもオルガンもドラムスも聞こえて来ますが、“ロック”というよりはやっぱり“歌謡曲”…。“カンボジアン・ルーククルン&ルークトゥン”、もとい “カンボジアン・ムード歌謡” あるいは、”カンボジアン夜霧よ今夜もありがとう”、果ては“カンボジアン小指の思い出” “カンボジアン・グンナイトベイビー”…と、どんどん、わけわかりませんが、そんな雰囲気が横溢することは確か!?レッキとしためくるめくマイナーな湿り気を帯びた東南アジアの洋楽折衷歌謡世界が繰り広げられているのでした…。コレが真実一路の黎明期カンボジア歌謡!というわけで、“カンボジアン・ロック”の虚像をひとまずは振り払って聞いてみて下さい。1960年代シン・シサモット作品ベストCD第1集全18曲〜お見逃しなく!