いい、ジャケです。
インフォでは、ロンドン在トルコ出身のクルド系女性歌手ということですが、ユダヤ教徒家系のクルド人ということになるでしょうね(ということは、ユダヤ系と言っても同じですが…、すくなくともアスランという名はユダヤ系の名前です)。学生時代からトルコ各地のマイノリティーの民謡を学び、渡英後にはシェコヨフ・クレズマー・アンサンブルで歌っていたそうですから、かなり柔軟な姿勢で東地中海歌謡にアプローチしている女性ということになるでしょうね。で、このアスファルト・タンゴ・レーベルからのファースト・ソロ作では、ギリシャのレべーティカに取り組んでいます。
もともとレべーティカはギリシャのドメスティックな音楽と言うよりも、かつては、トルコの港湾都市、イズミールに住んだギリシャ人、ユダヤ人、アルメニア人、クルド人、そしてトルコ人たちの共生において育まれた音楽でもあるわけですから、トルコ出身のルーツ歌謡を歌うユダヤ系女性歌手がレべーティカにトライすることに違和感はありません。既に何人ものトルコ人音楽家がレべーティカを歌っていることはご存じの通り。たとえばこちら>ガムゼ・ジャンユルト嬢もそのひとりです。
そんな中、このチグデム・アスランが際立つところは、その素直で癖のない歌い口でしょうね。透明と言ってもいいでしょうか、いかにもユダヤ歌謡を歌って来た感じがします。レベーティカがギリシャでブルースっぽく癖のある嘆き節に変貌する以前の、オスマントルコのもと、イズミールの歌謡音楽だった頃を空想させる歌声かも知れません。トルコ語とギリシャ語で歌っています。