初めは1990年、次に98年、そして2011年と、なんと三度も狙撃された男〜そう、不死身の男、イブラヒム・タトルセスがとりあえず、帰って来ました!凶弾に頭を打ち抜かれて早3年、やっとリリースしてくれた43作目(?)となる復帰作。が、しかし、“タトルセス・クラシック” というタイトルが示す通り、新曲は1曲のみ(しょぼん)、ほか9曲はすべて過去作品のリマスターということで、実質、00年代録音中心のリマスター済ベストCDの登場ということになります。
とうとう復帰新作が出たか!と勘違いし、 当方 twitter でオレは待ってたぜ!なんて先走ってしまいました。すみませんでした! 〜
というわけで、1952年シャウンウルファの貧しい家に生まれ、クルド人としての出自を持ち、中学にもあがらずレストランや結婚式で歌い稼いでいたそうですが、1970年代半ばに本格デビューして以来、そのスウィートヴォイス(=タトルセスという芸名の意味由来)、高音域で伸び上がりメリスマを重ねる素晴らしい歌声ひとつでトルコの国民的男性歌手となった男イブラヒム・タトルセス。加えて、レストランチェーン&航空会社、旅行代理店網のオーナーであり、アパレル会社も経営、人気TVショウ司会者にして映画俳優でもあるというイブラヒム・タトルセス。今度こそダメかと思いましたが、さすが不死身の男(?…しっかし三回も撃たれて、どんだけ憎まれているのか?相当ゴーインな商売を展開して来た?しかも後々になってクルド人であることをカミングアウト、公にクルド独立を標榜しているタトルセスですから、何となくトルコでのその複雑さもアンビバレンスさも伴った上での大スターぶり、多少理解できないこともないんですけど…)。
で、さすがに youtube 映像を観ると、左半身に多少後遺症が残っているようで、なるほど、未だ元どおりのクォリティーで多くの曲は歌えない(まだスタジオ缶詰めはキツイ?)、という自身の判断において、この新曲入りベストCDの発売に踏み切ったタトルセス、苦渋の選択だったかと、そーも思います。しかしトルコ古典歌謡やクルドのフォークロア、ハルク、アラベスク等の蓄積がものを言い、トラッドな曲がじっくりと並んだこのベストを聞いていると、改めて、オレは完全復帰を待っているぜ!と言いたくもなり、唯一の新曲 / ややクルドっぽいダンス・リズムの冒頭曲 “Ele Ne?” で聞ける以前とまったく違わない歌い口、その歌唱力のダントツさを聞く限りは、そんなに心配することでもないかと、そー思っています。
ところで、考えてみると、あんまりベスト盤というものが存在しないトルコのこと(セット売りとかヴァリアスものはいっぱいありますけど)、その意味ではタトルセス入門には最適かも知れませんね(たぶんコレまでベストは出ていなかったかと…)、この復帰盤CD。