こちらはマルチニックのカダンス、というか、ややカダンス・リプソに近い音楽性を持ったホーンズ&キーボード抜きのギター・バンド、ですね、ロベール&ウージェンヌ・シルヴェストル兄弟を中心に結成された不動の8人組、って、1976〜78年に3枚のLPを残して消えてしまったグループですけどね。
細やかなギター・プレイが生み出すポリリズム、エクザイル・ワンっぽい前傾カダンス・リプソ・ビートにクレオール系哀愁メロのヴォーカルが乗るところとか、イントロがちょっとファンクだったりするところなど、その辺、聞きどころでしょうね。本盤はジャケの元となっている77年作全部とラスト・アルバムとなった78年作から2曲を収録しています。
1 Bagail La Douce 4:52
2 Obsession 3:50
3 Vieux Pont City 4:42
4 Rosie 3:35
5 Western Karaté 3:40
6 Ce Doudou A 3:54
7 Patience A Super 4:47
8 Jeune Fi Ou Pas Bon 5:55
9 Tout’ Bagail Douce 6:18
10 Vacances 3:21
Leader, Vocal / Tambourin – Robert Sylvestre
Guitare Solo – Eugène Sylvestre
Guitare Basse – Denis Granbin
Chœur – Jean-Pierre Laigle
Congas – Raymond Cinraul
Cowbell / Tambourin / Chœur – Serge Giboyau
Batterie / Chœur – Guillaume Lambert †
Guitare Rythmique – Roger Blameble.
<補足 カダンス>
“カダンス・ランパ” とは、ヌムール・ジャン・バティスト創始の”コンパ・ディレクト”に対抗するため、ライヴァル関係にあったウェベール・シコーが自らの音楽スタイルを名づけた言葉。基本、アコーディオン&サックス、そしてホーンズを前面に展開したコンパ・ディレクトと本質的には変わらないものの、セカンド・ドラムの導入により、安定したバス・ドラムと強調されるシンバル、ハイハットとカウベルが生み出すアップテンポなリズム感において、ウェベール・シコーはカダンス・ランパに名のもとに人気を得ます。
1970年代に入ると、コンパ、カダンス・ランパや、それに続くハイチの若手台頭を象徴する“ミニ・ジャズ・ムーブメント”の影響も流入、新たな音楽スタイル “カダンス” が(その多くが、Debs スタジオの制作において)グァドループを中心に流行、次々と新しいグループが世に出ました(Selecta, La Perfecta, Les Aiglons, Les Vikings, Typical Combo, Les Gentlemen, Les Leopards, …)。ハイチ・スタイルを咀嚼し整理されたビートに、ビギンやマズルカなどのメロディーを援用しつつ、カダンスは、マルチニックやドミニカ島(ドミニカ共和国ではなく、英領ドミニカ島)も巻き込み、仏語圏カリブを席巻していきます。
並行して、ドミニカ島出身の音楽家達(Exile One, Grammaks…)が、グァドループを拠点に展開した “カダンス・リプソ” もカリブ圏内外で人気を呼びました。カダンス・リプソとは、カダンス・ランパとトリニダードのカリプソをミックスし生み出されたという70年以降のダンス音楽。カリブ海音楽として最初にシンセサイザーを導入、ソウル、ファンク、レゲエ等の要素も取り入れたその疾走感あるサウンドは(ソカの成立にも影響を与えたそうです)、カダンスと合流するかたちで、80年代のズーク大流行の伏線となりました。