MAZOUNI / UN DANDY EN EXIL, Algeria-France 1969-1983

未だフランス領だった頃のアルジェリアの、地中海に面した中都市ブリダで1940年にカビール人として生まれたモハメド・マズーニは、50年以上のキャリアを持つ歌い手であり作曲家、だそうですが(存命中、その新曲は現在彼の地で吹き荒れる民主化をテーマに歌ったもの>★youtube100万ヒット)、これまで寡聞にして知りませんでした。いわゆるカビール系の自作自演歌手として、デビュー当時の1960年には、アルジェリア独立に向けて “非中立” の立場を歌った曲をヒットさせたそう、…って、それはどういうことなのか? ま、推察するに(間違っていたらごめんなさい)、フランスはアルジェリアを統治するにあたり、アルジェリアのアラブ系住民とカビール(ベルベル)系住民を一致団結させないために、カビール系住民を優遇、アラブ系住民との離反を図る植民地政策を取ったため(仏の常套策)、カビール系住民の中には、多数派のアラブ系住民が主導して目論むアルジェリア独立に対して “中立” 的立場を取る住民もいたんではないかと、そんな中での “非中立” じゃなかったかと思います。たぶん?
が、独立が達成されると、カビール系住民の肩身は当然狭くなることに。そんなわけで、1962年のアルジェリア独立以前からのカビール人のフランス移住は独立後も続き、現在フランスに住まうアルジェリア系住民の多くがカビール系だということです。と、前置きが長くなりましたが、その “非中立” を歌ったアルジェリア時代の作品は、ここには収録されていません(という肩透かし)。
そう、ここに収録されているのは、タイトル 『亡命中のダンディ』 とあるように 1969-1983 年の間にフランスへ移住してから、またアルジェリアへ帰るまでの間に、このマズーニにが録音したシングル音源集ということになります(亡命だったのか、単なる移住だったのか、その辺、定かならず)。と思ったら、社会主義ソヴィエトと結んだ当時のアルジェリアに、音楽家として、息苦しものを感じての渡仏だったようです(粕谷先生の詳しい日本語解説でよ〜くわかりました)。
ところで、独立以前からアルジェリアのユダヤ系やカビール系の歌い手が渡仏することは全然珍しいことではありませんでしたが、大抵はアルジェリアで歌っていたスタイルをそのまま渡仏後も変わらず通すのが常道だった中、このマズーニの面白いところは、渡仏後の録音群が見事に当時の在仏アルジェリアンの若い世代のための音楽になって行ったところでしょうか(渡仏前の録音にしても、カビール /ベルベル的要素の強いモダン歌謡を歌っていたようですが、例えば>★)。その辺、本CD収録曲を聞いていただければそれは自明、キュートな女声のコーラスや男女掛け合いあり、当時フランスを席巻していたイエイエ(トゥイスト)・マナーもあり、フレンチPOP風のフォーキー・ロックあり、もしくはエレキぎんぎんのロックもあり、バンド・ブルースっぽい曲も、ヴァリエテっぽいロックバラード調も、あるいは、ハードにベンディール(片面太鼓)&ガスバ(葦笛)を決めた初期ライ・スタイルで歌われるフランス語曲群までと、実に多彩!が、そんな中、マトゥーブにも通じるようなシャアビ発カビール・ソングっぽい曲も並んで、なかなか開放的でスリリングな展開、かつ何処となくスタイリッシュ、“ダンディ” の由縁も感じさせる内容になっているわけですね。
なるほどラシッド・タハが両親の聴いていたマズーニに大いに刺激を受けたという話もうなずけますし(06年の “Diwan 2” でカヴァーしています)、あのオルケストル・ナショナル・ドゥ・バルベスが、その音楽スタイルの自在さを倣ったという話も、納得できますよ。

—————以下、国内配給盤メーカーインフィより

ラシッド・タハも憧れた、1962年のアルジェリア独立に伴いフランスに渡ったカビール系歌手マズーニ。彼がフランスの地で残した、自由かつスタイリッシュな7インチ音源集。

● フランシス・ベベイやカルトシンセポップ、仏領カリブなどヴィンテージものを掘り出してきた仏おもしろレーベル、BORN BADが次にスポットを当てたのが、本復刻アルバムのアルジェリアのカビール系歌手、モハメド・マズーニです。
● マズーニは、1940年、当時まだフランス領だったアルジェリアのアルジェ南方のブリダに、カビール人として生まれました。アルジェリアは、大きく分けてアラブ系とベルベル系(カビールを含む)が暮らしていますが、少数派のカビール人たちは職を求め、当時の支配国フランスへ移住するものも多くいたようです。アルジェリア独立後も、独立前のフランスによるベルベル優遇の政策などもあり、さらに多くのベルベル人たちが、フランスに移住しました。
● マズーニもアルジェリア独立後にフランスに移り住み、音楽活動を続けました。本アルバムは、フランス時代の録音を集め編集されたものです。
● まず聞いて驚くのが、その音楽性の広さ。故郷カビール地方の伝統的スタイルやシャアビ、ベンディールとガスバによる初期ライ・スタイルといった当時のアルジェリアで流行していたスタイルは勿論、アラブ・ポップ調から、ロック調のギター・イントロとカッティングから始まるTrack4、ブルース調のTrack5、サイケ~フォーキー風のTrack11、フォーク調のTrac14などなど、本当に多彩です。
● 伝統を根底に持ちながら、当時フランスに移り住んでいたアルジェリア人たちの為に、時代の空気を敏感に感じ取ってつくられた曲群からは、自由な感覚とスタイリッシュでダンディな佇まいがあふれ出ています。そんなマズーニに影響を受けたというラシッド・タハは、Track2をカヴァーしています。

1. Mon amour il est gentil わたしの彼は優しくて
2. Ecoute moi camarade まあ、聞け
3. Je n’aime pas le jour 昼はきらいだ、夜もきらいだ
4. Daag dagui ダグ・ダギ
5. Je pense à celle あいつを想うと
6. Si Massoud シ・マスード(きみを愛する、これからも)
7. L’amour Maâk あんたとの恋(アムール)
8. Tu n’es plus comme avant きみは変わった
9. 20 ans en France フランスの20年
10. Je suis seul わたしはひとり
11. La Madrague ラ・マドラーグ
12. Clichy クリシー
13. Chérie Madame いとしい奥様
14. Dis moi c’est pas vrai 嘘だと言ってほしい
15. Adieu la France さらばフランス

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