ハウリン・ウルフ?それともマハラティーニ?フクウェ・ザウォーセ?今ガーナで “未来の民俗音楽”と呼ばれるその音楽性、2弦のコロゴをカキ鳴らし、ダミ声ヴォイスでシャウトするこの男キング・アイソバ、久々のアフリカ音楽大物登場!?
ガーナ北部に住まうフラ・フラ人として生まれ、フラ・フラを代表する弦楽器、コロゴの弾き語りを演じるキング・アイソバ。ガーナの流行音楽ヒップライフ(=ハイライフ+ヒップホップ)を経由して、コロゴ・ミュージックに回帰し、“砂漠のブルース”〜“マリアン・ブルース”のさらに南、”サハラ交易文化圏” 最南端のブルースを、ヒップに体現します。アフロビートも伝統音楽も等価に飲み込むそのヴァイタリティー溢れるネオ・トラディショナル・ミュージック、お聴き逃しなく!
というわけで、詳しくは>こちらを〜当方より国内配給盤をリリースをさせていただくも、数年前にめでたく売り切れ、で、先に制作元のオランダ、MAKKUN RECORDS の方でCD再プレス成っていたようですので、輸入盤にて再入荷と相成りました。再度オススメしましょう!やっぱり、ガーナはフラフラのコロゴ・ミュージック、最高の名盤!ということで、まだ、という方は是非!
以下、以前当方にて国内配給盤をリリースした際の、深沢美樹センセーの解説です。
“キング・アイソバ /ウィケッド・リーダーズ”
アフリカ音楽の未来を指し示すネオ・トラディショナル音楽 深沢美樹
ガーナのヒップライフに疎いもんですから、キング・アイソバが収録されている『ブラック・スターズ』というアルバムが2008年に発売されていた事を全然知りませんでした。後からその話を聞いてCD棚をチェックしたら何故かちゃんとありましたが、えー?いつ買ったんだっけ、全然覚えてないなあ、と考えているボケ老人の域に入った自分に気づいた次第。いやー最近多いんですよ、忘れ物が。まあ、1曲だけですし収録曲「モダン・ガーナイアンズ」は打ち込み&ラップ入りのヒップライフ・スタイルなので、ボケおじさんには印象に残らなかったのかも知れません。
しかしですよ、このアルバム『ウィケッド・リーダーズ』は違います。出会ったのはリリース直後、某サイトの新譜情報で、聞いた瞬間一発で気に入り、さらにYou Tube のタイトル曲PVで勝手に盛り上がり即オーダー。とーぜん旧作もしっかりチェックしてすぐ買いました。腰の重いボケおじさんにしては、なかなかの早業です。
何処がそんなに気に入ったのかと申しますと、まずノックアウトされたのは彼の強力な歌声。若い方はご存じないかも知れませんが、わが国ラッパーの元祖として絶大な支持と尊敬を集める豊年斎梅坊主、あるいはブルース界のダミ声巨人ハウリン・ウルフ、アフリカ音楽ファンならマハラティーニ、フクウェ・ザウォセを連想するかも知れません。フェラ・クティの歌声にも通じる部分がありますかね。
おまけに「ヤバマワ‼ (Our Grand Grand Fathers という意味。祖先への呼びかけ?)」「カエカエカエ~(Everything Finish という意味)」などの、絞り出すようなダミ声の掛け声にもシビれてしまいました。そう、彼の歌声には紛れもない芸能の魂が宿っています。こればかりは日本もアメリカもアフリカも関係ありません。お客さんからお金を取るための有無を言わせぬ説得力、路上だろうが演じる場所を問わないタフな芸能の香りを強く感じます。これだけの歌声を聞かせてくれる人は、今時もう、そうはいませんよ。
そんなアイソバの音楽の原点はガーナ北部の都市、故郷ボルガタンガにあります。75年生まれとしているサイトが多いのですが、何故か彼自身のフェイスブックには80年8月3日生まれとあり、ボルガタンガ近郊の村で育ったようです。ブルキナファソ南部から彼の故郷ボルガタンガ周辺はフラフラと呼ばれる民族の土地で、アイソバは幼い頃からコロゴという2弦のリュート型弦楽器を覚えて育ちました。
ボルガタンガはコロゴを弾き語るミュージシャンも数多い中心的な町で、以前 Awesome TapesでCD化されたボラという人もそんな1人でした。コロゴ・ミュージックは伝統的な民俗的音楽に根差していますが、やはり強い芸能の色彩を感じます。かつて日本にもあった放浪芸能と同じ性質と社会的役割を持ち、音楽的には戦前ブルースの芸能的性格に近いと言えばいいかな。アイソバの強い芸能感覚はこのコロゴ・ミュージックから受け継いだものと言っていいでしょう。ついでながらコロゴについては”Frafra Kologo Music”(http://kologomusic.blogspot.jp/?m=1)というサイトが参考になりますし、またアイソバのバックグラウンドを知るにはインタヴューに答えたYou Tubeの映像 ” INTERVIEW with King Ayisoba “が必見です。
さて、そんなコロゴの伝統をしっかりと身に付けたアイソバが首都アクラへ出たのは90年代の半ば頃。最初はホテルの警備員として働いていたそうです。とはいえコロゴの腕前を買われ音楽活動もしていたようで、ある時テリー・ボンチャカなるヒップライフのミュージシャンと出会います。2人は組んで音楽活動を始め、アイソバのコロゴと歌にボンチャカのラップという異色のスタイルで注目を集めました。02年のステージ映像がYou Tubeの “The Best of Agya Koo and Terry Bonchaka – 2002” で見れますが(17分20秒辺りから登場)、なるほどこれはなかなか面白い(そしてアイソバの若い事!)。
こうして次第に人気も高まっていた2003年、なんとボンチャカが突然の自動車事故で亡くなってしまいました。アイソバのショックはかなり大きかったと思いますが、彼と過ごした時間は無駄ではなかったようでコロゴ・ミュージックとヒップライフを併せたデビュー作 “Modern Ghanaians” を06年に発表。そこから” I Want To See You My Father ” が大ヒット。
この曲、女遊びにお金を使い子供の養育を放棄する若い父親へのメッセージを子供の視点から訴えたもので、多くの人々の共感を呼び07年ガーナ・ミュージック・アワーズ・フェスティヴァルで見事 ” Most Popular Song of The Year ” を受賞。アイソバの名前はガーナのポップシーンに大きく躍り出る事になりました。続いて08年に” Africa “、12年に” Don’t Do The Bad Thing “とアルバムを発表。これら3枚のアルバムは、いずれもアイソバの持ち味であるコロゴ・ミュージックとヒッップライフを並列させた内容で、いま聞いても強力なアーティスト・パワー、存在感は変わりません。
面白いのはコロゴとヒップライフを並列・同列に捉えているようなアイソバの意識・感覚です。音楽的部分を借用し合う所はありますが、まだ本質的に2つの音楽を融合しようという感じではありません。あえて区別はしているが差別はしていないというか、相反するような2つのスタイルを同居させて違和感が無いというのもユニークですが。まあ、どちらも彼にとっては大切な音楽でしょう。盟友ボンチャカの写真を自分のフェイスブックのカヴァーとしている義理堅い男ですから。また過去3枚のアルバム発売元ピジン・ミュージックはヒップライフ系プロデューサーとして評価の高いパンジ・アノフ(ゲイと告白して話題!)のレーベルで、彼はアイソバのアルバムにおけるモダンなセンスの導入に大きな役割を担っています。
こうして着実に実績を積み重ねヨーロッパへも度々ツアーに呼ばれるようになり、13年には Mo Blackという欧州エレクトロニカ・ユニットとの共作も発売。こうして満を持して発表したのが本作です。
過去3作と比べて違うのはコロゴ・ミュージックのスタイルを全面的に打ち出した事。これはアイソバ自身の要望だったそう。録音はほとんどアクラで行われ、1曲だけオランダのZeaというアーティストとのライヴ共演が収められていますが、彼は本作の発売元マッカム・レコードの主宰者でミュージシャン。オランダ・ツアーの最終日にアイソバに促されてステージに上がり歌った時のものだそうです。
タイトル曲「ウィケッド・リーダーズ」はYou Tube のプロモーション・ヴィデオを是非チェックして下さい。コロゴやザイロフォン(木琴)、グルゴと呼ばれるドラム、シンヤカ(シェケレ風楽器)などにドオ(Doo)と呼ばれる長い筒状の笛によるアンサンブルが目を惹きます。ザイロフォンを除いて、他の楽器はアイソバの故郷ガーナ北部地方で使用される楽器だそうで、特に要所で決めるドオの雄叫びのようなサウンドは効果的&面白い。この編成によるサウンドを基本に、ちょっとクール&ジャジーなホーンズが被さるのもイカシてます。このホーンズは先程ご紹介したパンジ・アノフの手によるもの。
アルバム全体はコロゴ・ミュージックのスタイルを全面的に打ち出しているけれど、通して聞いても一般的な民俗音楽の感覚とは違いますね。コロゴ・ミュージック自体が芸能性の強いスタイルだし、1曲目のコーラスやクラリネット、5曲目のエレキ・サウンドなどアイソバとパンジによる現代的感覚がちゃんと織り交ぜられ、その柔軟で巧みなアプローチは過去3作とは違う神経の使い方です。
それでいて6曲目などの笛入りの曲は日本のお祭りみたいな感じもして、民俗的感覚の楽しさ、オーガニック感覚的な良さもしっかりと伝わって来ます。なによりアイソバの強力な歌声も爽快だし。過去3作が現代的音楽との差別なき並列ならば、本作ではそれを脱して、いよいよ現代感覚とコロゴ・ミュージックとのナチュラルな融合、未来のトラディショナル・ミュージックと言われる、そんな新たな領域に踏み出した気が。アイソバにその時が来た、と言えばいいでしょうか。
そんな音楽的な面白さと同時に、アイソバとの出会いはティナリウェンに代表される砂漠のブルースやマリのサハラ周辺の多くのミュージシャンたちのバックボーンにある音楽文化、その共通性に改めて気づく事になりました。以下は自分のフェイスブックで書いた事と重なるけれど、その共通性とは〈サハラ交易文化圏〉という視点です。
アイソバの地元ガーナのボルガタンガは、かつてサハラ交易の拠点のひとつとして発展した町。そこに生まれたコロゴ・ミュージックはサハラ交易の中心であったマリ帝国の文化と重なるのは当然かも知れません。あるいはゆるやかな文化的交流があったと言えるかも。
一列をあげると、マリの音楽家の1人にズマナ・テレタという人がいます。ぼくはこの人が大好きで、ソクという一弦の擦弦楽器を演じながら歌うのですが、このソクという楽器コロゴより小型ながら形態がかなり似ています。サウンド・ホールの位置はほとんど一緒。撥弦楽器と擦弦楽器なので音楽は違いますが、弾き語り芸能としての感覚は共通するものがありますね。
ティナリウェン、ズマナ・テレタ、キング・アイソバ、この三者はサハラ交易文化圏という広い視点のなかで、ゆるやかに繋がるものがあると思っています。同時に思い出したのがそんなサハラ交易文化圏の音楽とブルースとの関係を指摘したポール・オリヴァーの著作 ” Savannah Syncopators ” 。日本では81年に晶文社から「ブルースーアフリカ」として出版されましたが、ブルースの源流は西アフリカ内陸部の音楽文化にあるのではという問題提起で、冒頭の書き出しはまさにガーナ北部フラフラのミュージシャンとの出会いから始まります。
ティナリウェンやマリのサハラ周辺の音楽、そして今キング・アイソバの音楽を聞いていると、オリバーの指摘をなんだか実体験した気分になってしまいました。そしてアイソバを含め最近よく聞いているコンゴのカサイ・オールスターズのような、ある意味ネオ・トラディショナル・ミュージックと呼びたい音楽こそ、再びアフリカン・ポップの未来を指し示すと思っています。
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