在米越僑女性歌手、ハーヴィーの前作です。やっぱり当店的には、その歌声の素晴らしさ、素地のキメの細やかさにおいて、現ベトナム歌謡音楽最高峰と推してしまいましょう(しかし、このジャケの薄笑い、なんとかならなかったんでしょうか…)。ということは見渡してみれば今、“麗しき20世紀モードのアジア歌謡” 世界においても最高!と言ってもイイかも知れませんね。 滅び行く “庶民の美意識の堆積としてのアジアの歌謡音楽世界” の中でも今注目すべきベトナム歌謡シーン、の中でもダークホース的存在?ハーヴィーの新作です!(って、まあ、大仰ですが…)
それぞれの曲想においては、ノスタルジックな歌謡 / 民謡 / 望郷ソングばかりを集めたという>前作のトータル感には及ばないでしょうね。ピアノ・イントロの汎アジアPOP調から、ベトナムの弦をフィーチュアーした古謡風、男声歌手を迎えてのデュエット・ナンバー(カラオケ向き)、そしてイントロでカイルオン風の節まわしを聞かせる伝統曲風まで、それぞれのスタイルが並ぶように見えますが、曲の変化はイントロや間奏に限られて、おしなべて主題が始まれば、ベトナム歌謡としてはごくフツーの保守系通常モードに流れているかと思います。で、その伴奏のあり方も同様です。それなりにウワモノの交代はありますが、あまりにも通常モード?70年代この方の汎アジア的な歌謡曲伴奏の枠を超えることもなく、前奏間奏にベトナム的仕草がそえられている程度と聞こえます。
が、しかし、ハーヴィーのその人の声がひとたび響けば、どこか憂いをふくんだ、そのやわらかな歌声が響きさえすれば、無色透明と言ってもいい非・個性的な伴奏が、逆に、瞬時にハーヴィーの歌の色あいに染まり、合わせ鏡の奥行きにも似た効果を発揮するとでも言いましょうか、実に効果的な歌の反響をもたらすわけです。
もう、ベトナム歌謡に限らずとも、女声によるアジア歌謡のバラード世界に郷愁というものを少しでも感じる貴兄なら、この見事な、非・グローバリズム(反・ではありません)を体現した本CD、静かな気持ちで、しんみりとお楽しみいただけるハズ!