GUTY CARDENAS / EL TROVADOR YUCATECO, grabaciones remasterizadas 1928-1931

中村とうようさんの編集盤CD『カリブ音楽の旅』の2曲目に“Que Te Ha Dado Esa Mujer”(NY録音)というアバネーラ曲が収録されていたユカタン半島生まれのトロバドール、ギター弾き語りの自作自演歌手、グティ・カルデナス(1905-32)のSP録音復刻集全25曲。20代で早逝してしまいましたが、メキシコ最初の大スターとされる歌い手で(唯一、西海岸で制作された米国映画にも俳優として出演、メキシコ封切り版も作られたそうです)、1928〜31年までに180曲近い録音を残した人ですね。本盤はそのタイトル通り、晩年の3年間に残されたコロンビア音源25曲を収めたCDとなっていて、これまでにリリースされているCDとあまり曲が重ならないところ、嬉しいですね。
ところで、「ヌンカ」や「マヤブの旅人」など、今もって歌われるスタンダードの作者として、カルデナスはメキシカン・ボレーロの父、とも言われますが、その音楽性はすなわち、キューバにほど近く、カリブの海に半島として突き出したユカタンに早くから流入したとされるキューバ系音楽の洗礼を浴びたものであり、その自作曲の数々は、アバネーラやカンシオン、クラーベ、ダンソンといったスタイルで歌われ、明らかにキューバ音楽の感覚に通底(その意味で、とうようさんは『カリブ音楽の旅』に収録したわけですね)、当然、メキシコにおけるボレーロという歌謡の美意識の萌芽をお聴きいただくこともできるでしょう。
ロス・パンチョスも、我が敬愛するマルコ・アントニオ・ムニェスも、女声メキシカン・ボレーロの嚆矢とされるエルビラ・リオスも、このカルデナス曲のカヴァー・アルバムを吹き込んでいましたが、そんな、メキシコ音楽史を代表する歌い手達が先達と仰いだカルデナス、いわば、メキシコのポピュラー歌謡の父とすべき音楽家であり、その早逝はあまりにも惜しいことだったと思います。
そして、その死のというのは、メキシコ・シティの酒場のケンカ、地回りにナイフで刺されてのことだったそう。イノヴェイターというのはどこの国でも刺されたり撃たれたり、そういうものなんでしょうか、ね?

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