昨年(2015)年末ギリギリのダラーラスの新譜です! FEELGOOD RECORDS なるレーベルからの発売で、とうとう、御大ミノスを離れたか!?と、ビックリしましたが(未だ詳しいところは不明)、共同名義の作曲家、ニコス・プラティコス関係のレーベルみたいですね。ニコス某は1965年アテネ生まれ(両親のルーツはクレタ)、アテネの国立コンセルヴァトリーで作曲とピアノを学び卒業した後、ハノーヴァーとケルンの大学で、それぞれ演劇と舞踏を学び、そのままドイツに留まって映画音楽の世界で成功した人ということです。近年はドイツとギリシャを行き来し、双方の国で映画のサントラを制作しているとのこと。ちなみに、FEELGOOD ENT. は、アテネの映画配給会社も兼ね、サントラCDも多くリリースしている模様、その関係で本盤は FEELGOOD RECORDS からのリリースということになったのでしょう。
で、ある麗らかな春の日、散歩中のニコス・プラティコスはラグタイムとレベーティカという2つの前世紀の変り目の音楽を掛けあわせることを思い立ったそう、なのかどうか知りませんが…、なるほど、それはいいアイデアだ!すぐレコーディングしよう、と、グラスを傾けていたダラーラスが言った、のかどうかは知りませんが、ま、そんなこんなで(どんなこんなだ?)本作はリリースされたのでしょう、たぶん。
ともあれ、ラグタイム・ピアノにブズーキやバグラマというギリシャの弦、デキシーランド風の木管&金管も加わった編成でレベーティカを演じる、鄙びたムードの冒頭インストからグッと引き込まれてっしまうわけですね。アルバム・タイトル “TA ASTEGA” は “ホームレス” の意味。30歳以下の若者の就業率が50%以下という昨今のギリシャのこと、タイムリーな表題なのかも知れません(んなこと言ったら怒られそーですが)。
それで、全体として、北米ラグタイムにレベーティカをミックスした、まるでそういう音楽ジャンルが昔から存在していたかのような演奏において、ヨルゴス・ダラーラスのあの声が、常よりも飄々として、なんだか不景気な感じ?枯れた風合いを醸すようなヴォーカル曲が淡々と並んで、なんとも愛聴に値する作品となっていますよ。名作の予感、否、名作の実感が既にあります。
ゲストにはエレーニ・ツァリゴプール(久々のトラッドなライカ調ヴォーカルがしんみりイイ味)&アスパシア・ストラティグゥ(ダラーラスのツアーでコーラスを担当して来た女性歌手、当店では>こちらのデビュー作が大好評でした)、そして、ブルージーなムードの男性歌手、スタマティス・クラウナキスも参加!それぞれに切なかったり、渋かったり、イイ歌い口を聞かせいます。冒頭曲含めた3曲のインストも穏やかに哀しいイイ味出してます。なぜ、今までこういうギリシャ音楽が無かったのか、そっちの方が不思議なくらいに自然なラグタイム&レベーティカをミックスした、コロンブスの卵っぽい優良コンセプト・アルバムになってます!オススメできます。