★イーザー/オーケストラ & エチオピアン・ゲスツ/エチオピーク32 ~ ナルバンディアン:エチオピア近代音楽の父
忘れられた近代エチオピア音楽の原点──〈ブラスの祝祭〉がついに記録として結実!
2017年のギルマ・ベイェネ&アカレ・フーベ『エチオピーク30~ミステイクス・オン・パーパス』(ライス BDR-3259)のリリース以降、長らく音沙汰のなかったBuda Musiqueの人気シリーズ《エチオピーク》が、実に約9年ぶりに再始動することになりました。そしてムルケン・メレッセ篇に続く第32集として登場するのが、本作『エチオピーク32~ナルバンディアン:エチオピアン』です。
本作の核となるネルセス・ナルバンディアン(Nerses Nalbandian)は、戦後エチオピア音楽の近代化を牽引したアルメニア系の音楽監督。アルメニア人迫害から逃れた一家の一員として1930年代末にエチオピアへ移住し、叔父ケヴォルク・ナルバンディアン(Kevork Nalbandian)が築いた近代音楽の基盤を継承。アディス・アベバ市立バンドやハイレ・セラシエ劇場オーケストラを率い、ブラス主体の編成とエチオピア固有のモードを統合しながら、のちの《スウィンギン・アディス》へ続く音楽文化を形づくりました。しかし本人名義の録音はほとんど残されず、その全貌は長らく謎に包まれていました。
この“空白”を埋めたのが、米国マサチューセッツ州ケンブリッジを拠点とするスモール・ビッグバンド、イーザー/オーケストラ(Either/Orchestra)です。1985年にサックス奏者ラス・ガーション(Russ Gershon)が結成した同バンドは、サックス3~4本、トランペット、トロンボーン、ピアノ、ベース、ドラムズ、パーカッションから成る柔軟な大編成で、デューク・エリントンやギル・エヴァンス、サン・ラー、チャールズ・ミンガスの系譜にロックやポップスの感覚を取り入れた、多様で冒険的なサウンドを特徴とします。北米・欧州・アフリカ各地を巡るツアーを通じて独自のスタイルを築き、日本でも知られる彼らですが、エチオピーク・ファンには特に、ムラトゥ・アスタトゥケやゲタチュウ・メクリヤと共演した名盤『エチオピーク20~ライヴ・イン・アジス』(ライス BDR-31011)のバンドとして記憶されていることでしょう。
そのイーザー/オーケストラが2004年にアディスを初訪問した際、ナルバンディアン家から託されたのが、未発表スコアと放送録音の数々でした。ラスはそれらを丹念に解析し、劇場オーケストラの響きを尊重しながら、4~5本のリードと強力なブラス・セクションを軸にした現代的アレンジへと再構成。本作は、2011年アディス・アベバ公演(アリアンス・エチオ・フランセーズ/国立劇場)を中心に、カナダ(2012年)やボストン(2015年)での録音も交え、長年にわたる研究成果を集大成したものです。
歌手陣には、1960年代にネルセス本人の劇場オーケストラで歌っていた大ベテラン、ギルマ・ネガシュ(Girma Negash)、祖母が愛した古いレパートリを受け継ぐ若手女性シンガー、ベティ・G(Betty G.)、中堅の実力派マイケル・ベライネ(Michael Belayneh)、米ボストンのデボ・バンドのブルク・テスファイ(Bruck Tesfaye)が参加。クラリネット奏者ダウィト・フレウ(Dawit Frw)、テナーサックスのジョルガ・メスフィン(Jorga Mesfin)らも加わり、世代と地域をまたぐ協演が実現しています。
①「Amhara Rumba」、③「Yene hassab」、⑤「Yetezeta Roro」ほか、いずれの楽曲にもブラスの高揚とエチオピア固有の旋律感が息づき、戦後“アディスの新時代”を象徴した劇場オーケストラの熱気が鮮やかに蘇ります。ネルセスの膨大な遺産を一次資料に基づき立体的に再現した本作は、エチオピア近代音楽史の“失われた第一章”を照らす決定的なドキュメントです。
長らく閉ざされていた近代エチオピア音楽の扉が、いまここに大きく開かれます。
●日本語解説/帯付き
1. Amhara Rumba
2. Mot lehulum ekul new
3. Yene hassab
4. Mambo #1 Aznalehu selante
5. Yetezeta Roro
6. Aderetch Arada
7. Ambassel
8. Lebe men atefa ?
9. Enegenagnalen
10. Eyeye
11. Hulet weddo ayhonem
12. Qelemewa
13. Tebeb new teqami
14. Afriqa [O.A.U. Anthem]
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