今年の夏、ひっそりとあの帝王シェブ・ハレド、久々の新作が配信のみでリリースされていました(>★)。それなりに歌い込んではいるんですが、アラビックなミクスチュアーPOP仕様のその新作、“ライ” ならではのあの感じ、全身の想いのたけを、グッとその節まわしに込め中空に放っていくような、あのヒリヒリとした感じは、やっぱり後退、曲によっては消え失せていたのでした。
何だか、ここ数年、ほぼリリースされなくなってしまったライの新録ですが、ハレドの笑顔を古い記念切手風にあしらったその新作ジャケを見ていると、う〜ん、とうとうライは終わってしまったのだろうか?なんて思ったりもするこの夏の終わりでした。
が、それはともかく、この秋、ウアムリア奈津江さん主催 hako gallery でのアルジェリア・イヴェント&石田昌隆さん写真展に於いて売られていた ZINE〜 “DIMA ALGERIA” を当店でも売らせていただけることとなり、早速届いた ZINE〜フォトブック風冊子(p.72)をパラパラとめくりながら、石田さんの写真と文章に触れ、ライという音楽に初めて出会った頃の興奮が蘇るような気持ちにもなりました。
まさに1989年クラブ・クアトロにおけるシェブ・ハレド来日時の写真で始まるこの “DIMA ALGERIA” 、翌 1990年の暮れ、パリからマルセイユを経由しアルジェリアへ渡り、そしてアルジェからオランへと…、まるで、アルジェリアでライという音楽が生まれ、マルセイユやパリのアルジェリア人街を経由し世界へと伝わった道筋を遡るような、音楽の発火点への旅を記録したフォトブックとなっているんじゃないか、と思います。
オランの道端で見た猫の交尾や、エール・フランセの客室乗務員のモデル風ポージングとか目にしたもの、シャッターを切った事実に触れならも、当時のアルジェリアの政治、歴史的な背景への説明を織りまぜつつ、音楽の現場、クラブやスタジオ、カセット制作販売の老舗等を巡り、あるいは旅で出会った人々との交りを通じて、改めてライという音楽の成り立ちを具体的にルポしてくれるような ZINE でしょうか。写真の中の人々の表情や荒涼とした風景、街並のたたずまいや、ウィンドウ、犬、瓦礫、光や影さえ、ライを語っているようにも見えるのでした。