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8月23日はエルスール原田さんの誕生日でした。お祝いのメッセージに添えて送ったのがこのアルバムなんですが、気に入って頂けたようで安心しました。
これ、実は1年ほど前に発売されていたんですが全然知らなくて、バンドキャンプでカリプソをキーワードに検索して見つけたんですが曲目を見てびっくり。だって全11曲中、往年のカリプソ・ナンバーが9曲!
聞いてみたらこれまたゴキゲンなアレンジと演奏。発売当初は一部で話題だったようですが、コレは原田さんの誕生日にもピッタリかなと思った次第。
演じるのはチャーリー・ハロランというニューオーリンズで活動するトロンボーン奏者を中心にしたバンド。デビュー作はトラディショナル・ジャズを中心に演じていたんですが、セカンドでなんとビギンに取り組み、サード・アルバムではディキシーからニューオリンズR&B、ビギン等々と幅広く演じ、この4作目でカリプソに接近。
カリプソって言っても色々あるんですが、選曲がシブいよね。で、いくつかのお店のサイトを見ると元ネタについて触れているものがあるんですが、ちょっと認識不足もあったりして。という訳で、ここは昔とったキネズカ、ワタクシなりに下ネタ、いや元ネタについてご紹介しておきましょう。
1曲目のオリジナルはキング・レイディオ(King Radio)の39年デッカ録音 ‘It’s The Rhythm We Want’ で、ベア・ファミリーのボックス《West Indian Rhythm》で聞けますよ。この曲はジャック・スニードも録音したけど未発売。デューク・オヴ・アイアンがカヴァーしたのは57年頃のLP ”Calypso Carnival”(LPM1386)でしたね。
2曲目と10曲目はカリプソではなくビギン。前者はグァドループ出身のアル・リルヴァ(Al Lirvat)の作品。リルヴァは最初ギタリスト、後にトロンボーン奏者としてパリで活躍。50年頃に「ワバップ」なるジャズとビギンを融合させたスタイルを発案。その頃の彼が加入したのがマルティニークのサム・キャストンデ楽団(Sam Castendet Et Son Orchestre Antillais)で、10曲目は彼らが53年に録音したのがオリジナルかな。この2曲は” Antillaisement Vôtre… Biguines-Salsa; Succès Des Années 1950-1959” (Pathe 2534062) というCDで聞けます。
3曲目はデューク・オヴ・アイアンがLP ”Calypso Carnival” で歌った’Fifty Cents’。しかしオリジナルはビル・ロジャースというガイアナ出身のカリプソ・シンガーの曲で、38年録音の”The Fifteen Cents Sweetheart”といのが本来のタイトル。50セントと15セントの違いがありますが、ビル・ロジャーズはエンターテイナー的性格を持っていた人で、デューク・オヴ・アイアンもよく似た個性の持ち主だから、ちょっとアイデアを拝借したのかな〜。オリジナル録音はレアですが、LP時代にこの曲を再演したビル・ロジャーズのアルバム”Santos From Guyana” がありますよ。
4曲目は50年代から60年代にかけて活躍したフィツ=ヴォーン・ブライアン楽団(Fitz-Vaughan Bryan Orchestra) のナンバー。彼らは55年に楽団を結成。当時トリニダードにあったクリストファー・レコーディング・サーヴィスという会社のレーベル、ケイ(Kay) にロード・ブレイキーなどの伴奏で録音を始め、クック、トリニダードRCAなどにもレコードを残しました。’Vicki’ は正式には’Calypso Vicki’というタイトルで58年クックに吹き込んだのがオリジナル。同年にはジョニー・ゴメス(Johnny Gomez)もクックに録音しています。
いかにも当時のカリプソって感じのメロディで、いや〜グッと来ますね。
続く5曲目もカリプソの伴奏楽団として有名なシリル・ディアスが、58年クックに録音した曲を元にしたナンバー。タイトルが「タブー」なのでレクオーナ・ キューバン・ボーイズやペレス・プラードのあの曲かと思っちゃいますが、よく聞くと加藤茶で有名なあのフレーズは出てきません。その曲に影響受けてディアスなりに解釈したのかは分かりませんが、まあ、これは同名異曲と言っていいでしょうね。
ディアスの楽団はケイ・レーベルで初期マイティ・スパロウの伴奏を務めた事でも知られ、他にもロード・メロディやロード・クリストの伴奏を勤め、後年にはトリニダードRCAからスパロウとメロディのナンバーをインストで演じたアルバムなんかも発売している、当時を代表するオーケストラです。
そのスパロウの曲も2曲を取り上げていますね。6曲目の「ドロシー」はスパロウ58年のバリシエのLP ”Calypso Carnival 1958 (Balisier HDF1005)“ に、9曲目の「マンゴ・ヴェルト」は “Sparrow In Hi-Fi ; 1959 Calypsos And Songs (Balisier HDF1009)”に収録。前曲はクックや英メロディスクでも発売されていますが、バリシエからのライセンスでしょう。
そんなカリプソ曲だけでなく、ベネスェーラのホローポなどに影響を受けた初期の代表的な楽団、ライオネル・ベラスコのワルツ曲も取り上げているのがハロランのセンスの良いところ。7曲目がそれで、オリジナルは1933年の録音。これはマッチボックスのリイシューCD “History of Carnival (MBCD 301-2)”に収録されていました。
8曲目はロード・インヴェイダーがトリニダードのドメスティック・レーベル、サゴメス(Sagomes SG160)に50年代の初頭に吹き込んだのがオリジナル。後にフォークウェイズ、オーディオ・フィデリティのLPでも再演しています。
トリニダードには戦後の米軍の駐留、カリブ観光化で様々な問題が起こりますが、特にその影響を受けたのが女性たちで経済的な理由による売春なども社会問題化。英領だったバーベイドス島(66年に独立)にも共通する問題が起こります。快楽を求め両方の島に行ったり来たりする男性、それに翻弄される現地女性を描いたのがこの曲。オリジナルを聞いてそれを理解すると、単に哀愁メロディだけじゃない、この曲の奥深さが分かるんじゃないかと…
さて、最後の11曲目はロード・メロディが60年頃クックに録音したのがオリジナル(COOK 927)。当時発売されたLPはジャケ違いがあって、”Calypso Through The Looking Glass”となっているのは再発ジャケで、初版は”Melody’s Top Ten”というタイトル。裏側に歌詞も掲載されているんですが、これはちょっとエロネタの歌のようですね〜。
という訳で、機会があれば是非オリジナルも聞いて欲しいな〜と思います。
1.The Rhythm We Want 03:10
2.Doudou Pas Pleure 04:14
3.Fifty Cents (Ft. Jimbo Mathus) 02:53
4.Vicki 03:55
5.Tabu 04:35
6.Dorothy (ft. John Boutté) 03:27
7.Juliane 03:42
8.Barbados (ft. St. Louis Slim) 02:57
9.Mango Vert (ft. Jimbo Mathus) 03:31
10.Voltige Antillais 03:00
11.The River 04:31