不思議なひと、ですねえ、バルボラ・シュウ…チェコで生まれ、太極拳に夢中になったことからプラハで中国語を学び、台湾へ留学、台湾原住民の音楽文化をフィールドワークする傍ら、中国の琴、古箏を学んだそうです。その後、フィンランドへ渡り、現地大学で東アジア文化を研究する傍ら、同じく撥弦のカンテレ(ツィター)も習得したそう。バルボラ・シュウというその名も、本名のバルボラ・シラノヴァと、自ら名乗る中国名の許寶靈(シュウ・バオリン)を併せたもの?なんでしょう、きっと。2018年には学究生活を終え、今はフィンランド諸島の一つの島で自然に囲まれ暮らしているそうですが、そんな経歴を辿って生まれたのがこのデビュー作ということに。
本作、李白をはじめとする古い漢詩や、フィンランドの古い叙事詩や古謡を、古箏とカンテレを持ち替えながら、弾き語りにおいて聞かせているとのことです。中には即興風のインスト曲も挟みながら、なるほど中国的な調べや歌いまわし、そして、カンテレの響きやフィンランド系トラッドに沿った歌い口も聞こえます。けれど、聴き進むうちに、どこまでが中国風であり、どこまでがフィンランドの古い伝統に沿ったものなのか、よくわからなくなってしまう、ということはあります。あるいは、どこまでが伝統的なものなのか、どこまでがバルボラ・シュウのオリジナルな音楽性なのか、その境界は曖昧であり、一聴シンプルと言ってもイイ、弦とヴォイスが響き合う内容でありながら、最終的には歌と撥弦が描き出す迷路のような内容とも聞こえて来る…まったく、その不思議な音楽性。
北と東、いにしえの詩と楽器を触媒にして、2つの古代音楽文化の相似性を浮き彫りにしようとしているものか、それとも、タイトル『OLIN ENNEN(かつてわたしは)』が暗示するような、リーンカーネション体験の持ち主なのかも知れない?…なんて、そんなことまで考えてしまいましたよ。が、ま、何にしても、いろいろな想像、幻視を誘ってくれるにあまりある作であることは確かでしょう。それに、なんとも麗しいCDジャケットじゃないですか…
1.Olin ennen otramaana 03:25
2.Lintuseni 02:46
3.Huánghè Lóu 03:37
4.Yītǐ-liǎngmiàn 02:43
5.Hé Shuǐyuèdòng Yùn 05:23
6.Kirkas neiti kihloissasi 02:54
7.Nuku nuku nurmilintu 03:03
8.Enkö minäkin toivoisi 03:35
9.Rìchū 03:26
10.Outro 06:06