黃連煜 / 滅人山

1992年に新寶島康樂隊(ニュー・フォルモサ)を陳昇(ボビー・チェン)とともに結成以来、現在まで、台湾語とともに、明代末から清代かけて、台湾に移住した客家人(>★無断リンク)の言葉、客家語歌詞のオリジナル曲に力を入れて歌い続けて来た台湾のシンガーソングライター、黃連煜〜アユゴ・ホァン(ホァン・リェンユー)のソロとしては6年ぶりとなる2021年12月末リリースの6作目(この時、60歳)となる新作です。手にとってみて、一枚一枚のジャケが微妙に違うなあ、と思ったら、黒いポリ袋のようなポリエチレンフィルムに歌詞とかデータが印刷され、クチャクチャにされてCDプラケースに収められた、なかなか凝った体裁なんですねえ。ま、そうしたことも何かコンセプチュアルな意味を持っているのかも知れせん(単なる思いつきかも知れませんが)。そして何より、これまでになく、客家の伝統的歌唱により近い歌い口も場面場面で強調されているところも注目でしょうね。

あるいは、逼迫する台湾情勢やコロナ禍を受けての変化なのかも知れませんが、少なくとも>前作にあった、どこか、おおらかな気分は減じていて、ソロ活動と並行して現在も続く新寶島康樂隊の諸作を含めて思い出しても、これまでで(少なくとも自分が聴いた限りでは)、一番シリアスな雰囲気漂う作、じゃないかと思います。ラップ曲もあれば、オルタナティヴな曲調、あるいは、客家ファンクとでも呼びたいような曲も並び、アートなジャケの意匠もあいまって、どこかしら切迫感みたいなものも感じさせつつ、ヘヴィーな聴き応えのアルバムになっています(そんな中、実の息子二人のギターとの初共演ロッキン・ブルース・ナンバー “愛到你” は微笑ましいと言っても過言ではありません…うち兄の方はTV&映画俳優として注目の若手だそう)。

例えば、アルバム表題曲 “滅人山” の歌詞は(ネットの翻訳にかけて、意味を拾うことしかできませんけど…)おおまかには以下のようなものかと。

俺の心の中には、触れることのできないものがある
海を渡れば、帰る術もない危険な土地

が、幽鬼の国といえ、あの運命の山へ行かなければ
海とは何だ?見たこともない
この倦み疲れた土地を離れ、新しい命を求めなければ
幽鬼の国といえ、やはりあの破滅の山へ行かなければ

だが、同胞よ、台湾には行くな、死の門を叩くな
千人が去って行き、誰も戻って来ないのだから…

ちょっと意味が取りにくいところもあったんですが、この曲、海峡を越え台湾に渡った客家の苦難を詠った古典的な詩にインスパイアされた曲だそう。客家の出自にこだわることで歌い続けて来た黃連煜が、ここでまた、ルーツ確認の歌をうたっているわけですね。加えて、この曲 “滅人山” では、台湾原住民(先住民)の歌い手、サンボイが、現住民の言葉でなく客家語で黃連煜とともに歌っていますが、そんな場面にも、エスニシティーやコミュニティーの枠を越える重層的な意味あいが感じられます。たぶん、この表題曲 “滅人山” はじめ全十曲、それぞれの曲に台湾の諸事情が、黃連煜の視点から織り込まれているんだろうなあ、と思います。

ところで一度、3年ほど前、東京でこの黃連煜のライヴを観る機会があったのですが、その夜のことは不思議に記憶に残っています。なんだか、ヤル気満々なんだか、飄々としているんだかよくわからない風ながら、歌う言葉の意味もわからずに感じたことは、この人には、たぶん、いちいち歌う理由があるんだろうな、というようなことで、「ただ、歌いたいから歌っている」と、そうは言わない人だろうなと感じたこと(良し悪しの問題ではなしに)。その意味では、やっぱり”アイデンティティ・ソング”というか、プロテストにもつながっていくSSWという印象でしたが、本作を聴いて、その印象、改めて確認しました。

1 璿卿 3:27
2 滅人山 4:00
3 飛去你身邊 4:32
4 我們都是原住民 3:28
5 愛到你 3:46
6 蛇哥摎鷂婆 3:41
7 茶園食茶香對香 3:53
8 落水天 3:51
9 轉去銅鑼灣 5:32
10 大情歌 3:31

go top