メキシコ、クリアカン(ドラッグウォーで有名な土地柄だそう)出身のナルココリード(=チカーノ系ギャングスタラップのルーツにして、アコーディオン使いのワルツやポルカで歌われる定型詩バラッド〜メキシカン・コリードのサブジャンル)のシーンにおける伝説の自作自演男性歌手、チャリーノ・サンチェス(1960-1992)のベスト盤です。
チャリーノは17歳の時、歌手志望だった実の姉をレイプした男を殺害、その後、国境を越え米国へ流れて行きます。以降、メキシコからの不法移民の国境越えを手助するプロフェッショナル、いわゆる”コヨーテ”と呼ばれる密入国の差配として10年ほど過ごした後、テックスメックス(ノルテーニョ)のコンフントで歌い始め、頭角をあらわしました。
その歌は、誰が、何処で、どんな理由でモメて、どんな風に撃ち合い死んで行ったか、そして、生き残ったのか、という、実際、コヨーテ時代に経験し、見知ったアンダーグラウンドな世界での出来事を叙事詩的に歌い綴ったものと思われ、いわゆる “ナルココリード” の嚆矢として、大きな人気を呼ぶことになりました。 が、32歳の時、国境地帯のナイトクラブで歌っていた夜、ギャング達に銃で狙撃されるも、すぐさま自分の銃を抜き応戦、結果、二人の男をチャリーノは撃ち殺したそうです(銃で撃たれて逝った歌手はほかにも何人かいそうですが、銃を撃ち返した歌い手なんて、あのルネス・マトゥーヴと、このチャリーノ・サンチェスぐらいでしょうか?ただし、マトゥーブはその銃撃戦で亡くなってしまいましたが)。
けれど、ほどなくして故郷のクリアカンに戻ったある日、チャリーノは警察を名乗る男達に連行されますが、その翌朝、後頭部を撃ち抜かれた遺体となって発見されたそうです。1992年のことでした。誰に、何のために殺されたのか、理由は明らかにされていませんが、まあ、そんな人生の終わりを迎えるしかなかった男の歌、という感じ、伝わるような気もします…。
放物線を描くように伸び上がり、情感を溜めつつ下降して行く、あの伝統的なコリードの哀愁表現とは異なり、どこか、放り投げるような歌い口が、勢いそのまま中空に吊られて、行ったり来たり揺れているようにも聞こえます。一本調子にも聞こえますが、確かに旧来のコリードとは異なる感覚、俺たちに明日はない、みたいな感じ?漂っていないこともありませんよね、よくよく聴けば…。しかも、ワルツ&ポルカで、デスペラードというのは、なかなかできることではないよーな気もします。
1980年代末にレコーディングを開始してから亡くなるまでの、たった3年ぐらいの間に多くのカセット、CD、7インチ・シングルを残しました。
1. Nieves De Enero 2. Los Chismes 3. Carta De Luto 4. A Todo Sinaloa 5. Florita Del Alma 6. El Pavido Navido 7. Me Persigue Tu Sombra 8. Cuatro Espadas 9. Alma Enamorada 10. Corazoncito Tirano 11. Prenda Del Alma 12. Una Tard 13. Maria De La Luz 14. El Navegante 15. Nocturno A Rosario