お待たせしました!ベトナム、ドメスティック系歌謡シーン、ナンバー1人気女性歌手レー・クエンの2018年作!やっとのこと、再入荷しました。いつものように、豪華なポストカードっぽい歌詞カードが付いています。で、タイトル通り、とうとう戦後ベトナムを代表する作詞作曲家、フエ出身、サイゴンで活躍したチン・コン・ソン(1939-2001)の作品をレー・クエンが歌っています。
チン・コン・ソンは “ベトナムのボブ・ディラン” とも呼ばれ、主に反戦歌を作曲して来た、と、されることも多いのですが(「雨に消えたあなた(美しい昔)」は、加藤登紀子が歌い、NHKドラマの主題歌として使われ、よく知られるようになりました。ほか、「坊やお眠り」も有名〜この曲に関しては、先日刊行された、竹村淳さん著『反戦歌』にも詳しく紐解かれていましたね)、もちろん反戦歌もあったでしょうが、やはり流行歌、ラヴ・ソングの作詞作曲に長けた人だったと思われます。日本でいえば、作詞家/吉岡治+作曲家/船村徹あたりの仕事を一人二役でこなした人、と喩えた文章を読んだ憶えがありますが、なるほど、そんな感じでしょうね、遠からずだと思います。ボブ・ディランというのはちょっと違うような気がします。
そして、もちろん、レー・クエンが歌っているんですから、ここに並んだチン・コン・ソン曲はラヴ・ソングということになります(南北ベトナム統一後〜1975年に革命政府はチン・コン・ソンの曲すべてを、放送することも歌うことも禁止してしまいます。それは流行歌なんて反革命的だ、という意味でしょうね。そして、チン・コン・ソンは革命政府の再教育キャンプに80年前後まで収容されたそうです)。
サイゴン陥落を期に、それまでチン・コン・ソンの曲を最もよく歌っていたカイン・リー(“ベトナムの太陽”なんて呼ばれたそう、ですが、どっちかといえば暗い、というか、沈んだ調子の歌い口が魅力でした)はボート・ピープルとして北米に亡命してしまい、師チン・コン・ソンと袂を分かつのですが、その後、チン・コン・ソンは自分の曲を歌って良しとする歌手を見つけることが、なかなかできなかったんじゃいかとも思います(90年代に秘蔵っ子、ホン・ニュンを見出すまでは…?)。
で、本作です。稀に見る情の濃さ、どんな曲を歌っても自分の歌い口、節まわしをまっとうするこのレー・クイン嬢の歌声、チン・コン・ソンが生きていたなら何と聴くか? というようなことはわかりはしないし、ま、どっちでもいいことですが、たぶん、合格なんじゃないでしょうか? サイゴン暮色とでも言いますか、抒情と憂いが混じり合ったようなチン・コン・ソンのスロー・メロに乗せ、ゆったりと弧を描くような歌声を、いつものあの節まわしを、独特なアルト・ヴォイスで聞かせるレー・クエン。いつの時代の、どんな作曲家の曲を歌っても、彼女なりのカラーをキッチリと聞かせてくれて、申し分ありませんね。多くはストリングスを背景にギター、もしくはピアノを軸とした淡色系のアレンジに終始する伴奏も、チン・コン・ソンのムードをうまく再現しているのかも知れません。ま、チン・コン・ソン云々は抜きにしても、変わらず、“アジア歌謡” の王道を行くレー・クエンでした。