その曲を加藤登紀子や天童よしみも歌った、ベトナムの国民的ソングライター、チン・コン・ソン(1939-2001)といえば、古くは彼の音楽的パートナーでもあったカーン・リーによる諸録音が有名ですが(今は入手困難?)、耳新しいところでは、>こちらヒエン・トゥック嬢のチンコンソン作品集が当店でもベストセラーとなりました。チンコンソンはポピュラー音楽世代のソングライターですから、決してベトナムの伝統的な音楽に則した曲作りをしたわけでもないのに、その曲のどれもがジンワリとベトナムらしい情感を湛えていることは、ヒエン・トゥックのCDで納得された方も多いハズ。
で、もうひとり、この人を忘れてはいけません。なかなか聞き応えあるチンコンソン作品ばかりを歌った2012年作のCD2作、遅ればせながらご紹介。 歌っているのはロー・トゥイ、ハノイ生まれ、National Academy of Music Vietnam で12年間学んだのち、伝統曲からPOPまで幅広く歌える歌手として06年にデビューしました。長く伸ばした黒髪、そのアルトヴォイスから多くのベトナム聴衆が抱いた印象は、第2のカーン・リーという印象だったそう。そんなイメージを裏切らず、しばしばチンコンソン作のカーンリー・レパートリーを歌っていたようですが、デビューから2年、2作のCDをリリースし人気も高まっていたものの、もったいないことに?早くも08年頃には結婚引退してしまったそう。が、しかし、結婚生活は長くは続かず、4年のブランクを経て歌手活動に復帰、そしてこのチンコンソン作品集2作を録音する過程で、失意を振り払ったそうですから、やっぱり歌手として生きることが性に合う人なんでしょう。今はバッサリと長い黒髪も切ってしまったもよう。
落ち着いたどこか翳のあるアルト・ヴォイスがチンコンソンの陰影あるメロディーをに沿って、ベトナム女声ならではのメリスマを上下させながら、なだらかに描く、その哀歓こもった情感が聞きもので、実力は相当なものと。ガットギターもしくはピアノを中心に置いて、各種東洋打楽器の効果的な使用、ハープやヴァイオリン、笛や弦のベトナム伝統楽器に加え、時にシンセやSEも交えたバックのあり方も、歌の伴奏に徹した工夫を随所に散りばめ、シンプルながらいいセンスを聞かせます。