*以下、深沢センセーの facebook 無断転載です。>★
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全ハイチ音楽ファン必読!
ちなみにMM誌2022年の年間 BEST ラテン部門 で2位となった作ですね!
いや〜久しぶりに充実したハイチ音楽のアルバムを聞きました。カナダ在住のハイチ系アーティスト、このウェスリ君の新作はかなりの出来ですね!
ウェスリ君は本名ウェスリー・ルイサン(Wesley Louissaint)。1980年ハイチ生まれで父親はトゥバドゥ(Toubadou /トゥルバドゥール)のバンドでパーカッションとバンジョーを弾いていたそう。しかし家庭は経済的に困窮していて、幼い頃に養子縁組でカナダのモントリオールへ移住。モントリオールは英語はもちろんフランス語も公用語として認められているバイリンガルな都市で、またカリブ系移民が多くいることでも知られハイチやトリニダード他のコミュニティもありますね。
ミュージシャンになるのが夢だったウェスリ君はモントリオールで音楽活動を本格的に開始。2009年にファースト・アルバムを発表し、以来これまで4枚のアルバムがあり、故郷ハイチへも度々訪れ2014年には若いミュージシャンをサポートする学校も開設しているとか。2019年にはJUNO賞というカナダのワールド・ミュージック・アルバム・オヴ・ザ・イヤーを獲得。そんな経歴も含め、今回まで彼のことは全然知らなかったのですが、この新作が大変面白かったので過去4作もゲットしてしまいました(未着ですが)。
さて、肝心のこの新作。タイトルが ”Tradisyon” とあるようにララ、ヴードゥー、トゥバドゥなどハイチのルーツ・ミュージックを掘り下げ、彼なりの現代感覚もミックスした内容と簡単に言えばそうなのですが、ルーツに対する意識と姿勢、音楽的センスには感心してしまいました。
冒頭の ”Peyizan Yo” はヴードゥー風のチャント&コーラスによる短いナンバーで、ララのパレードで良く使われるコネ(Konè )と言う錫製の楽器(じょうご形のラッパ)を加え、「農民の土地を奪うな」というメッセージでスタート。
2曲目はヴードゥーのセレモニーに範を取った曲で、ラクー(Lakou)と呼ばれる宗教概念がテーマのようです。「ラクー」とはもともと奴隷制時代の農村地域の家屋の集合体、形式を指す言葉ですが、そこでのコミュニティ同士の結びつき、相互扶助の精神、祖先との絆なども一体的に含んだ概念で、その精神性がハイチ独立後に発展したヴードゥー教に密接に関係、反映されたと言われます。ヴードゥーの世界観で「ラクー」は土地や家族、仲間、祖先たちとの絆や精神性が交差・交信する場所(家庭や礼拝所を含む)、ある種の境界を指す概念と言えばいいでしょうか。また、この曲ではコンゴ(Congo)と呼ばれるテンポの早いリズムを使用していますが、それはロワ(Lwa / Loa / Loi )と呼ばれる神霊であり、その宗派の名前でもあります。
簡単に言ってヴードゥー教はロワとの交信を通じて自身を理想へと近づける宗教儀式で、それは太鼓による歌とダンスによって行われます。ロワは自然界のあらゆる場所に宿り、ダンバラ(Damballa)、エジリ(Ezili / Erzulie)、アグウェ (Agwé)、レグバ (Legba)など他にも数多くがあり、宗派には大きく分けてラダ (Rada)、ペトロ(Petro)、コンゴ (Congo / Kongo)があります。
ロワへの供物には、果物、酒、犠牲となる動物、またロワのメッセージを解読する為の占い、薬草やお守り、そして太鼓による歌や踊り、憑依現象といった要素があるので、表面的なイメージからヴードゥー教は怪しげな呪術という偏見になりがちですが、ぼくに言わせれば統一教会の方が千倍怪しいよね!!
さてさて、3曲目がトゥバドゥによるナンバー。そこから4曲目のコンパへと繋げていますが、アコーディオンも加えているところなんか初期タブー・コンボを思い起こさせてくれます。5曲目はエリック・シャルル(Eric Charles)という若手トゥバドゥ・アーティストへのオマージュで、ややポップなスタイル。その延長と言えそうなのが次の6曲目で、エレキも加えたモダン・トゥバドゥとでも言えばいいか。このあたりのセンスはなかなか面白い。
そして7曲目がアゾールとラシン・マプー(Azor Rasin Mapou)に捧げた曲。アゾールは本名をレノール・フォルチュネ(Lénord Fortuné)といい、ハイチのヴードゥー系パーカッション奏者で、歌も上手いんですがチロロ(Ti Roro)と似た個性の持ち主で、ラシン・マプー・ドゥ・アゾール(Racine Mapou De Azor)というグループで活動。90年代後半に来日してハイチ大使館が製作したCDもあるんですよ。残念ながら2011年に46歳の若さで亡くなってしまいましたが。
ララのパレードを模した8曲目を挟んで、続く9曲目もヴードゥー系の楽曲。こちらはワワとラシン・ガンガ(Wawa Rasin Ganga)へのオマージュとあります。ワワは本名をジャック・モーリス・フォルテール(Jacques Maurice Fortere)といい、75年頃にシュペール・シュクーヌ(Super Choucoune)というメラング〜コンパ系バンドのマエストロになっているんですが、78年にヴードゥー音楽のアルバムをミニ・レコードから発売したのを皮切りに80年代から多くのヴードゥー・アルバムを発売。90年代にラシン・カンガ(Rasin Kanga)を結成しました。先のアゾールもワワと演じたアルバムがあるようで、90年代に注目を集めたミジック・ラシーン以前の底流、前触れのような動きがあった事が改めて見えてきます。
そのワワへのオマージュの9曲目、いきなりフルートとヴォーカルを重ね合わせた演奏のイントロには、ローランド・カークかと思っちゃったよ。さらにアコやエレキを加えたミジック・ラシーン・スタイルと続き、中盤から後半もフルートが大活躍。こんなスタイルはありそうでなかったし、15曲目も同じようなアレンジで斬新です!
アルバムは全部で19曲あるからこの調子で書き出すと長くなっちゃいますし、後半も面白い楽曲がありますから後は実際にお聞きいただければと。そして今回のアルバムはルーツを掘り下げたもので、すでにこの試みを未来に生かしたアルバムを発表予定というのだから、ちょっと驚いてしまいます。
よっしゃ期待して待ちましょう!
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ハイチ音楽の現代化を目指してきた音楽家が
伝統に根ざしたアクースティック・アルバムを〈Cumbancha〉 から世界リリース!
カリブ海に浮かぶ島国ハイチで生まれ育ち、現在はカナダのモントリオールを拠点に活躍する音楽家ウェスリ(1980年生)が、アメリカの人気レーベル〈クンバンチャ〉から素晴らしい新作を発表してくれた。ハイチで盛んな民間信仰のブードゥー教と関係の深いお祭り音楽ララや儀式の音楽、またトルバドゥールに由来するトゥバドゥといった伝統音楽などを題材に、アクースティック・ギターやバンジョウ、パーカッションといった楽器を中心にして、時にレゲエやソウル、コンパなどの要素を取り入れて現代化を図ったのが本作だ。ポップで親しみやすいものから、濃厚な伝統スタイルまで、とても振り幅のあるサウンドでハイチの伝統音楽の魅力を紹介してくれる。 (メーカーインフォより)日本語解説&帯付
1. Peyizan Yo
2. Fè Yo Wè Kongo Banda
3. Kay Koulé Trouba
4. Makonay
5. Konté M Rakonté M (Hommage à Eric Charles)
6. Trouba Ewa
7. Samba (Hommage à Azor Rasin Mapou)
8. Rara Mawoulé
9. Wawa Sé Rèl O (Hommage à Wawa Rasin Ganga)
10. Kadja Kadja
11. Simbi
12. Le Soleil Descend
13. Ba Li La Vi (Remix)
14. Peze Café
15. Ibo Ibo Msé Toro
16. Ay Lina
17. Soufle Van Yé
18. Azounké an Yanvalou
19. Tifi a Leve