EL WALI / TIRIS

西サハラ(人口約57万人)の音楽といえば、故マリエム・ハッサン、アシサ・ブライム(アジザ・ブラヒム)といった西サハラ独立に向けてコミットし続けて来た女性歌手、あるいは、西サハラ出身ながらモーリタニアで活動する砂漠のギター・バンド、グループ・ドーウェイあたり、当店でもなかなかの人気ですが、このエル・ワリもまた西サハラを代表するバンドだそう。
西サハラの遊牧民(サハラウィ)の解放運動(実効支配するモロッコ対してポリサリオ戦線を組織し、独立運動を現在も継続)を通してメンバーが集まり結成され、シンセサイザー、打ち込みリズム、エレクトリックギターを使用し、サハラウィの伝統的な音楽スタイルと西洋音階をミックスしたその演奏は、サハラウィ解放運動の象徴として西サハラの遊牧民たち、そしてアルジェリアの難民キャンプに暮らすサハラウィに支持されて来たとのこと。
本作『ティリス』は、1994年にエル・ワリがベルギーをツアーした際に録音され、限定リリースされたCDということで、すぐに品切れとなり幻となっていた音源だそう。が、なぜか、西アフリカ一帯に音源の一部が出回り、サハラウィ音楽としてヒットした由。で、その西アフリカに流通した1曲を収めたオムニバス LP  “Music from Saharan Cellphones Vol 2” を 本CD制作元の SAHEL SOUNDS が、2012年にリリースしていました。それから苦節8年、本作EL WALI / TIRIS の完全な音源を、カナリア諸島やスペイン(どうしてそっち方面に探しに行ったかは意味不明)、そして、アルジェリアのサハラウィ難民キャンプのあるティンドフからベルギーまで探し求め、やっとのことリリースにこぎつけたという経緯、根性ですな。
その1994年という録音時期も作用しているでしょう。トゥアレグ〜サハラウィらしい女声コーラスが、ギター&シンセと手拍子&打ち込みの演奏に乗って、爽やかと言ってもいいような “ワールド・ミュージック”的なプロダクションが、実に耳に新鮮ですね。メロディーや変拍子、節まわしや器楽使いには、やはり西サハラに隣接するモーリタニアと共通するものが散見できますが、この軽快な調子、抑圧のない晴れやかさは、なるほどサハラウィ解放運動の希望につながる音かも知れません。あるいは、西アフリカ一帯で親しまれたというのも頷けるというか、ちょっとマンデやワスルっぽいリズム処理感覚も備えていると聞こえます。

1. 10 of May
2. The People of El Aaiún
3. 20 of May
4. Long Live the Sahrawi Army
5.Song for the Prophet
6.Youth of the Nation
7.Let Me Know Our Past
8.Brave People
9.The Day of the Free Nation
10.I Sing for the Country
11.Dreams and Nostalgia
12.Charm and Beauty
13.Sing for the Nation Day

Vocals:
Salma Mohamed-Saiid (Shueyta)
Fattata Baali
Bendir Ahmed Salem

Music:
Tidnit – Mohamed Salek
Guitar – Ali Mohamed
Tbal – Fattata – Shoyta
Bass – Hama Hasan
Keyboard – Baba Yuli
Drums – Rais Mustafa Mehdi

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