SEVVAL SAM / TANGO

sevval-sam2013 シェヴァル・サムの13年作はタンゴでした。新作ごとに新たな趣向をこらすシェヴァルですが、この作ではノスタルジックな20世紀前半トルコ / タンゴ歌謡の世界を華麗に繰り広げています。トルコでは1920年代から広く親しまれたというタンゴですが、当初はアルゼンチン・タンゴを演じる地元楽団の演奏に乗せてそのダンスが流行、イスタンブールを中心にタンゴ系のダンス・パーラーやダンス・スクールが多く開店したそうです。その後、トルコ語のタンゴ歌謡が作曲されるようにもなり、初めは女性歌手達が人気を博し、後に男性歌手も多く登場して、トーキー映画でのタンゴ歌謡シーンの需要を満たすこととなりました。以降、1950年代にかけてトルコでのタンゴ・ブームは全盛を保つこととなります。このシェヴァル作品は、そんなタンゴの時代を今に再現するがごとく、トルコならではの古典歌謡風味もまぶしつつ、切々とターキッシュ・タンゴを歌い上げる内容となりました。
アルゼンチン・タンゴの名曲、カルロス・ガルデルの “ポル・ウナ・カベサ” にはじまり、最初のトルコ語タンゴ歌謡とされるネジブ・ジェラル・アンデル作の “マジ(郷愁)”や、数多くのヒットを生み出したイスタンブールの人気タンゴ作曲家フェフミ・エジェ (1902ー78) のスタンダード3曲、そして、なんとトルコ語歌詞をシェヴァル自らが作詞したノスタルジック版ピアソラ “リベルタンゴ” まで!加えて、そのウードやカヌーン使いの伴奏や曲想において、タンゴとトルコ戦前古典歌謡をミックスしたような感覚のアレンジ曲も、得難いたたずまいで数曲並んでいます。これまで通り瑞々しく繊細でありつつも、どこか常よりスタイリッシュな歌声を聞かせ、タンゴのリズムの中、凛とした表情を見せるシェヴァル・サムです。彼女のファンならば納得の新作と言っていいでしょうね。オススメします。

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