本多千秋さん 2016 BEST 10 ALBUMS

2016 年に聴いたべスト・アルバムです。順不同。歌手名/ アルバム・タイトルの順。

1. Cécile Corbel / Vagabonde (2016) France
2. Faun / Midgard (2016) Germany
3. Cara Dillon / Upon a winter’s nigh (2016) UK
4. Sierra Hull / Weighted mind (2016) USA
5. Sarah Jarosz / Undercurrent (2016) USA
6. Leyla McCalla / A day for the hunter, a day for the prey (2016) USA
7. CajsaStina Åkerström / Vreden och stormen (2015) Sweden
8. George Dalaras / Thalassina palatia (2016) Greece
9. Peggy Zina / Para polla (2015) Greece
10. Emila / Eh, Bylgarijo Krasiba (2015) Bulgaria

番外:
1. Francesco De Gregori / De Gregori canta Bob Dylan – Amore e furto (2015) Italy
2. Ivete Sangalo,Gilberto Gil,Caetano Veloso /Especial Ivete Gil Caetano (2012) Brazil

この中では1.と2.が特に充実したアルバムだった。
まず1.のセシル・コルベルだが、まさかこれ程の内容の作品を出してくるとは・・・。参考資料として次の映像をあげておく。

以下に述べることはあくまで僕の個人的感想に過ぎないのかも知れないのだが、ケルト民族とアフリカ黒人との間には太古に文化的交流があって(このことを指摘した人もいた。)、それゆえアメリカに奴隷として送り込まれた黒人が、自身の体内にある音楽感覚とケルト系音楽との間に通底するものを直感的に見出していった。ゆえに、たとえばブルーズとグリオの音楽との間にある楽理的共通性が指摘されたのではないか。まあ、そんな妄想はさておきケルト音楽のみならず、このアルバムはアフリカ音楽、カントリー、純邦楽などあらゆる音楽ファンに推奨したいところだ。もっとも、この店の常連の方が好む巨乳美人などでは全然ない、いやそれどころか30半ばのどう見てもドブスの女性が、基本の路線としてはロリータボイスで異教的な音楽性をおどろファンタジーに繰り広げているわけだから、そういう音楽が苦手な人は手を出さないほうが無難かも知れないが。ゲストとしてファーダ・フレディ、ガブリエル・ヤコブ(マリコルヌ)などが参加してる。
2.については以前から感じていたことだが、まさか伝統音楽後進国と思っていたドイツからこれ程のケルトバンドが出現しようとは、10年くらい前には思いもよらなかったことだ。解説によるとアルバムタイトの”ミット・ガルト(ガート)”とはドイツの神話によれば悪魔や巨人の脅威から神によって庇護された人間世界を指すらしいのだが、そんな太古のヴァイキングやケルト民族の世界に聴き手を招待しようというのがこのアルバムのコンセプトらしい。1.と同様、異教的な音楽性を繰り広げているのだが、4人の実力あるシンガーが揃っているので聴き応えがあるし、ギリシャ音楽やトルコ音楽、アンデスのフォルクロ-レのファンにも薦められる。1.と同様まさにintemporalité(永遠性)に満ちた音楽だ。
3.は相変わらずレベルの高い作品、4.はこれからのブルーグラスを背負って立つ存在、5.は前作にくらべてアメリカーナの色彩が濃い現代人の心情が伺える内容、6.はハイチの血筋を受け継ぐ人がアメリカーナ的視点でフレンチ・クレオールの立場で環カリブ音楽をとらえ直した作品だ。レイラ・マキャーラ、歌の下手くそな人だが要注目だろう。

7.は一部のマニアを除いて大方の人がご存じないであろう、スウェーデンの大物歌手カイサスティーナ・ オーケルストレム(と読むのか自信はない)、音楽性はフォークだが心に染み入る名曲が揃っている。
今年はダラーラスの近作アルバムを3枚入手したが、やはりこれが一番良い。他の作品はラグタイムとの融合アルバム、それと古典ギリシャ語で歌ったLiveの ”Amiliti istoria”。
ペギー・ジーナは歌唱表現は異なれど、たとえばハリス・アレクシーウの70年代サウンドを受け継いでいると思うし、10.の今のギリシャにはない原石のパワーは注目だろう。
さて、今回の番外はおそらく普通の音楽を聴いている人たちの間で話題になったであろうと思われることに関連させて選んだ。フランチェスコ・デ・グレゴーリ、驚いたことに今回がはじめてのディランのカヴァーだ。

ディランのマニアの方はぜひ聞き比べをして欲しいところ。収録き曲は以下のとおり(もちろんイタリア語に翻訳して歌っている。)
Sweetheart Like You Gotta Serve Somebody If You See Her, Say Hello Desolation Row I Shall Be Released Political World Not Dark Yet
Subterranean Homesick Blues Series of Dreams Tweedle Dee & Tweedle Dum   Dignity
ところで日本を除く非英語圏のスターが英語圏のスターにアルバム1枚を丸ごと捧げた例というと、僕なんかGilberto Gilがボブ・マーリィに捧げた ”Kaya n’gan daya” (2002)ぐらいしか思い浮かばないのだがこちらの方はほぼ英語でうたわれ、ブラジル北東部音楽もからめてある。Xoteとレゲエの親近性もケルトとR&Bの相関性から・・ということはさておいて、今年は日本のテレビにカエターノとジルも写ったし、などのことがあり、番外2.だが ここで2015年に出て話題となった ”Dois Amigos, um Século de Música”より本アルバムを選んだのは、まだジルの声も枯れていないことや、こちらのほうがよりラテン的な感覚に溢れてること、単なる元気なお姉さん(とはいっても現在40代だが)といったイメージのイヴェッチ・サンガーロがここでは高い歌唱を聴かせているからだ。

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